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2016.05.12

「はやく、はやく、はやくきて」と女の子からいわれた時のこと、惑う耳の話

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「はやく」と

メールが来た。

 

1分後にも

「はやく」

 

さらに、その30秒後には

「はやく、来て」

 

三連投だ。

それほどに、早く来て欲しいのか。

私が来るのを待ち焦がれているのだ。

 

約束より30分ほど遅れて駅に着いた。

12時の予定だったのだが、随分と過ぎてしまった。

 

この時間、街は閑散としている。

 

お腹が空いているかもしれない、

コンビニに寄って何か買おうかと思ったところで
携帯が鳴った。

「どこにいるの?」

彼女の声は、密やかで少し震えていた。
「すぐ近くだよ。お腹空いていないか」

「空いていないから、何もいらないから、はやく!」

 

 

彼女からの最初のメールには、

「誰もいない部屋から、物音がする。怖いから、早く来て」とあった。

何かの物音に怯えている彼女の姿が思い浮かぶ。

この時間に聞こえる物音は……

彼女の聞き間違えだろうと思うが、気にはなる。

だから急がなくては、と思った。

しかし、要件は長引き、時間通り帰れないとはメールしておいた。

 

コンビニに寄るのをあきらめ、私は彼女の待つ家へ早足で向かう。

人気のない通り、人々は今の時間は、休んでいるのだろうか。

 

風がぬるい。

この季節にしては、生暖かい風だ。

 

風を背に彼女の待つ家に向かう。

門扉を開け、玄関の鍵を取りだしたところで、扉が開く。

 

少し不満げな顔で彼女は、

12時に帰ってくるって、言ったじゃない。遅いよ」

と責める。

 

「だから少し遅れるって、メールをしたじゃないの」

「でもね、一人だったから、怖かったんだからね!」

さらに言い募り、背を向ける。

その言葉が可愛らしく、仕草が愛おしい。

そっと後から抱きしめようとすると

「け、うざい、くさい。あっちいって!」

と、すげない。

 

アメリカのドラマなら、肩をすくめるところかもしれない。

日本人の私は、小さく溜息をつき、力なく肩を落とすしかない。

 

彼女は二階のリビングダイニングのテーブルにすわり、テレビをつける。

私もテーブルにつく。

 

「そうそう、怖い物音ってなに?」

「ここにいたら、一階からパチンて、ホント、聞こえたんだよ」

少し、頬を赤らめながら、彼女は訴える。

 

私は彼女を残して、一階に降り、玄関や廊下を見てみた。

廊下の窓が少し開いていた。

窓の向こうに、隣の家の廊下が見える。

廊下は少し薄暗く、電灯のスイッチらしきものも見えた。

 

リビングダイニングに戻って、彼女に報告する。

「廊下の窓、開いていたよ」

「そうなんだ。なんだあ。それにしてもさ、この時間面白いテレビないよね」

彼女の興味はテレビに移っていた。

「まあなあ、この時間じゃしかたないよ。録画したのでも観ようよ」

「それより、ねえ、ご飯は?」

 

彼女は安心したのか、のんびりと問いかける。

やっぱり、お腹が空いていたのか。

 

「え、お母さん、用意していかなかったの? お母さんは、夕方に帰ってくるんだろう」

「だから、お父さん、お昼作ってよ」

日曜の昼下がり、一人留守番することになった娘は、いたって不機嫌で、甘えん坊だ。

 

小学校高学年になっても、まだまだ子ども。

風呂上がりなど、いまだに下着姿でうろうろするのだが、それを注意すると

「なに見ているのよ、嫌らしい」と

責められる。

無邪気だけれども、少しずつ子ども時代は終わりつつある。

 

そうかと思えば、妻と喧嘩した時は、私のところに泣きに来る。

父親は、おろおろするばかりである。

 

しかし、これも、あと数年のことなのだろう。

高校が終われば、一人暮らしをはじめるかもしれない。

そして、いつかは家から出て行くのだ。

 

いまのうちにせいぜいツンデレされておこう。

 

 

 

「ということなんだよ」と

北千住の賑やかな居酒屋で、友人と妖艶な人妻を相手に話をした。

 

「それはそれは、怖かったね。その音は、なんだったの?

と妖艶な人妻。

タイトスカートに白のブラウス、微妙に胸元が見える。

彼女の胸元をみないようにしながら、

「そっちかい!」と、お約束の突っ込みを入れる。

「それは、怖いよな、都内の建て売りの地下には、何かがあったりするからな」

と、友人はごく薄い梅酒ソーダを飲みながら、したり顔で語る。

「だから、そこではないだろう」

 

友人と妖艶な人妻は薄く笑う。

「まあ、俺のところも、中学高校の時は、あまり口も聞いてくれなかったな。不潔とかいってな」

しみじみとした口調で友人は語る。

「でもな、就職してからは、少し変わったぞ。この間も飲みにいったしな、いっしょに」

娘の話なのに、なぜか鼻の下が伸びている。

 

「私も子どもが出来たら、親を見る目が変わった。ご飯をあたえておけば、子どもは適当に育っていくんだなって」

妖艶な人妻は、なにのことでもないかのように言うのだった。

「え、親に感謝するとか、父親と仲良くするとか、そういうことじゃないの?」

「ああ、そっちかあ、まあ、大人になったら、特に父親を避ける理由もなくなったなあ」

妖艶な人妻は、百年の孤独をロックで飲みながら、艶然と微笑んだ。

 

 

まあ、娘のツンデレは、いつか穏やかなものに変わっていくのだろう。

と、感慨にふけっているところに、LINEが来た。

 

(何時に帰ってくるの?)

娘からだ。

(あと、少しで帰るよ)

(遅い! 罰として、ポテチ二日分ね)

 

友人と妖艶な人妻は芸能人の結婚式のことを話しはじめている。

 

 

私は、LINEの画面を見ながら、胸が少し温かくなった。

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