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2016.08.17

行間から、音楽が聞こえてくる


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――読んでいると、音楽が聞こえてくる物語なんだ

……どこかに音楽のことが書いてあるの

 

――音楽のことが書かれているから、その音楽が聞こえてくる、というではないんだ。

読んでいると聞こえてくる音楽があるんだ。その音楽は、この物語に書かれている音楽ではないだよ。

……音楽のことは書かれていて、でも聞こえてくるのは違うと言うことは、書かれている音楽のことがわからない、ということ?

例えば、村上春樹の「1Q84」ではヤナーチェック「シンフォニエッタ」を聞いているのに、誰も、その曲のことは知らなかった。そんな珍しい曲?

 

――う~んと、セックス・ピストルズのことが最初に言及されている。

……パンクな古典? パンクの古典?

 

――そうだね、物語はパンクな色味がしている。しかし、鳴り響く音楽は違う。

……パンクは、なんか騒々しい感じ? 騒々しい色がしているのかな?

 

――パンクの色味は、黒だな。

……黒い物語なの。

 

――いや、この物語の色は緑だ。自然の緑、安全の緑かな。

……音楽が聞こえてきて、それはパンクではなく、色もあって、パンクな黒ではなくて、緑なの? なんだか、バラバラな感じ。

 

――バラバラなピースばかりのようだけれど、きちんと並べて、凸凹を嵌め込んでいけば一幅の絵が浮かび上がるんだ。

……一幅の? 一枚ではなくて。

 

――バラバラのピースをあわせると出来上がるのは、絵は絵でも日本画の掛け軸、という感じなんだな。

……水墨画のような世界なのかな。

 

――淡い、淡々とした風景、まさにそうだ。基調の色は、白黒ではなく、緑色なんだけどね。

……なぜ、緑なの?

 

――この物語を読んで、僕は、緑の風景をいくつか思い出したんだ。

夏休みに帰った田舎の家、家のまわりは木に囲まれている。夜、縁側に座れば、聞こえてくるのは風に揺れる木々のざわめき、葉擦れの音だけ。

読んでいると、なぜか、そのような音も聞こえてくる。

その葉擦れに音には、思い出があって、田舎の家を思い出すだけでなく、高校時代のことも思い出すんだな。

高校時代、授業がつまらなくて、ずっと窓の外を見ていたことがある。

窓の外は、中庭の木々と、誰もいない校庭。

聞こえてくるのは、外の木々の葉擦れの音。

先生の声は、何か遠くに聞こえてきていた。

そんな光景を思い出したりもした。

 

葉擦れの音は、サワサワと鳴り、風が強くなれば、ザワザワと聞こえる。

しかし、静かな音なんだ。

人が出す音、車の走る音、人の話し声、飛行機の音、列車の通る音、ドアを開け閉めする音、冷蔵庫のモーター音、子どもの泣き声、そのような音がない時に聞こえてくる音なんだ。

静かな音が葉が擦れる音なんだ。

その音が、時々物語の背景から聞こえてくる。

……自然の中の何か物語なのかな?

 

――まあ、そうでもある。自然との対峙は、一つ重要な場面だな。

……自然との対峙があるのね、自然をねじ伏せようとか、超克するとか、サバイバルな物語?

 

――そう、サバイバルの物語だな。サバイブするのは、自然ではなくて、人の世の中だけど。

……何かの困難を乗り越えていくの、降りかかる問題を解決していくの、それとも社会悪と戦うのかな?

 

――生きづらい世の中をサバイブしていく物語だ。

困難はある、問題は降りかかるかもしれない、悪は……悪はないかな、あるのは違和感かな。違和感が残る。

それらを超えようとしていく。

……なかなかかっこいい、スカッとする感じなのかな。てい

 

――う~ん、胸に迫る、胸苦しいかもしれない。しかし、迷い込んだ洞穴の遠い向こうに光を見るような感じかな。

……ふ~ん。

  それで、どんなお話なの?

 

――一一人の女の子が、学校でじっとみんなの足下を見つめている。みんなが履いているスニーカーは、驚くことにバラバラだ。

そんなシーンがはじめの頃にあるんだ。

そして、彼女はこんなことを述懐する場面がある。

 

『「空が今にも落ちて来そうだ」私は恐る恐るそう口にした。』

 

 空が落ちて来そう、と恐れる少女の物語なのだ。

……杞憂の少女?

 

――杞憂というより、なんだろう、受容と敢然の方が、あっているような気がするなあ。

その女の子は、こんな台詞も吐くんだ。

 

「こんな空の下を、何食わぬ顔で歩く人たちに、人生の目的があってたまるか」

 

毒を吐くんだ。

空が落ちてくるのを恐れ、そして、毒を吐く。

彼女は、なぜ、何を恐れ、そして、なぜ毒を吐くのか

それは……

……読んでからのお楽しみなのね。

 

――そして、この物語を読んだ時、聞こえてくる音楽は、僕には交響曲のように思えた。

クラシック音楽は、ときどきBGM代わりに聴く程度だけれども。

その音楽は、ポピュラーなドボルザークの「新世界より」みたいな感じかな。

……交響曲? なぜ、

 

――なぜかはわからない。

わからないけど、聞こえてきたんだ。

葉擦れの音と共に。

この本を読んだら、どんな音が聞こえたのか、教えて欲しいな。

……ふふ、私には何が聞こえるのかな……

 

私が読み終えた本を、妻が手に取る。

彼女は、この本からどんな音楽を聴くのだろう。

 

 

 

紹介した本:ジニのパズル 崔 実 講談社

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