スッキリさせてくれました
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅香帆著 集英社新書
明治以降の労働史と読書史から、今の読書離れの原因を探っていく過程がスリリングだ。
ことさら印象に残ったのは、
「①読書――ノイズ込みの知を得る
②情報――ノイズ抜きの知を得る
(※ノイズ=歴史や他作品の文脈・想定していない展開)」
という区分である。
読書という言葉に対していささかモヤモヤしていたのが、この区分でスッキリとした。私が書いたようなノウハウ本では「読書しました」とは言えないだろうと思っていた。ノウハウを伝えるのに、ノイズを排除して書いたからだ。
本書は、歴史をたどりながらも、ところどころ著者の心の声が漏れているのも面白い。
例えば、村上龍に対して「20代で鮮烈なデビューをかました村上龍にだけは言われたくねえ、と思う」とか。著者も20代前半で強烈なバズリをかましているじゃないかと、ツッコミたくなるが……。
本書では、明治以降の読書史が語られているのだが、それ以前はどうだったのだろう。来年のNHKの大河ドラマが「蔦屋重三郎」だから、というわけではないが、江戸時代の武士や町民たちの読書はどうなっていたのだろう。
また、ニッチな人々の読書史も知りたい。特に、1960年代以降に現れた「オタク」たちはどのように読書の時間を作り、オタク活動をしていたのだろう。私の周りにいたSFオタクたちは、膨大な量の本を読み、同人誌を作り、SF大会に参加したり主催したりしていた。それでいて、結構まともに働いてもいたのだ。
そんな今と関わりのない読書史を知ってどうするのだ、と言われそうだが、ただ知りたいのである。自分にとってはノイズだらけのことなのだが、知りたくなるのである。
と好奇心を喚起してくれる本だ。
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