2012年5月の本棚
積ん読本を解消しようと思い立った。
積み上がった本を著者別に集め、一気に読んでいくのだ。
本棚で彷徨っていた本たちを集め、まずは桜庭一樹と川上未映子を一気読み!
この二人は本当に面白い、面白さのベクトルが違うけど、面白いのである。
☆☆☆☆ 伏 贋作・里見八犬伝 桜庭一樹


つくづく桜庭一樹は「物語」作家なのだ、と思う。
南総里見八犬伝の換骨奪胎というか、本歌取というか。
伏姫と八房の物語が、何とも切ない。
それにしてもだ、桜庭一樹は、浜地とか、藻屑とか、なぎさとかツンデレな14歳の少女が好きなのね。
☆☆☆☆☆ 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 桜庭一樹


文庫本200頁にも満たない物語だが、読むのに時間がかかった。
それはもう、痛ましくて、辛くて、切ないから。
藻屑となぎさとの出会いは一ヶ月しかないが、結ばれた友情は濃密だ。
砂糖菓子の弾丸は誰を撃ちぬいたのか、少なくとも私は撃ちぬかれた。
☆☆☆☆☆ 少女には向かない職業 桜庭一樹


読んでいると、肌がヒリヒリと焦がれるような焦燥感にとらわれる。
この読者をどこかに放り出し、追い込むような感覚が桜庭一樹の持ち味なのか。
中学2年生は、閉塞状況から脱出、思春期の共同幻想のように思い描いているのだな。
しかしそれは、革命のための革命のように、革命後の世界像が見えず混迷を深める。
閉塞状況から抜け出てみれば茫漠とした荒野に出てしまう。そこが痛ましく、切ない。
☆☆☆☆ わたくし率イン歯ー、または世界 川上未映子


凄いけど何だかよくわからない。何だかもう、どろどろしていて、狂気のような、慟哭のような、心象世界が漏れ出てしまった現実のような。
朝吹真理子の「流跡」より、頭がクラクラする。
朗読すると気持ちよさそうな小説である。
☆☆☆☆☆ ヘヴン 川上未映子


川上未映子がはじめてわかりやすい文体で書いた小説。
文体に騙されて読んでいくと、実存の地平に掠われてしまう。
誰か哲学に明るい人に平明に解説して欲しいなあ。
百瀬とコジマは、何を言っていたのかなあ。
川上未映子は私の在り所を求めて漂泊しているようだ。
☆☆☆☆☆ すべて真夜中の恋人たち 川上未映子


読み終えて、しばし呆然とする。
いい小説だった。
近年の日本文学の一つの収穫だ。
読み終えた人たちとそっと語り合いたい物語である。
ヒリヒリと肌に冷たい氷を押しつけられたような、焦がされるような焦燥と倦怠、キリキリと痛む胃を想像する。
成就しない想いに胸が苦しくなるのである。
☆☆☆☆☆ 僕らのごはんは明日で待ってる 瀬尾まいこ


川上未映子の「すべて真夜中の恋人たち」のあとに読むと、心が安まる。
暖かく、優しい作者の眼差しが心地良い。
上村小春に会ってみたい。
一緒に米袋ジャンプをしてみたいと思うのだ。
上村小春はおおよそ、男性の理想の伴侶、恋人ではないのか。
一途に思い続けてくれて、そして、今も思い続けてくれて、キッパリと告白してくれて、どんどん引っ張ってくれる。そして、身際がとてもキッパリとしているところが、清々しい。
☆☆☆☆☆ 新世界より 貴志祐介


読むものを遥か未来に連れて行く物語の力。
読書の喜び、異世界を想像する楽しみが本書には詰まっている。
☆☆☆☆ 「そこそこ」でいきましょう 岸本葉子


そこそこ、気張らず、生きていこうという姿勢が素敵だ。
俳句の創作過程が興味深い、思い込みから抜け出たとき、のびやかな作品が生まれるのだ。
そして、心情を語らず、風景に心情を込める、というところがいい。
☆☆☆☆ 崖っぷち「自己啓発修行」突撃記 ビジネス書、ぜんぶ私が試します。 多田文明


「ついていったらこうなった」の著者の体当たりビジネス書実践記だ。
自己啓発の要諦は、会話術について述べる「何度も人前に出て訓練しては失敗し、
それでもトライすることで」の一言に尽きる。
自己啓発やノウハウは、一朝一夕にできるものではない。
魔法の方法などないのだ。
そして、試してみて自分にあった方法を自分なりに身につけていくしかない。