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2017年6月15日 (木)

彼女がディベートをはじめたのは……

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「じゃ、二宮さん、来週の進行役お願いね」

はぁ、また私か。

1回行われる部内会議。

進行役はローテーションで回していたはずなのに、

「ごめん、今週ちょっと案件重なっちゃって!」

「悪い、次回代わるからさ!」と、

みんな、なんだかんだの理由をつけて押し付けてくる。

 

どうして私なんだろう。

進行しながらも「声が小さい」と怒られるし、

入社4年目の部内で一番下っ端の私には、

先輩達が好き勝手言う意見をまとめることもできない。

詰まった時だけ「進行役なんかないの?」と言われたって急に名案なんて浮かばない。

違う人がやればもっと順調に行くのに。

だけど、誰もそんなことは気にしない。

ただ面倒な業務を増やしたくないだけだ。

進行役は、文字通り当日の会議を「進行」する以外にも、事前に会議室の準備をしたり、

書記から議事録をもらって報告書をまとめたりと、何かと面倒くさいのだ。

 

10名ほどしかいない小さな部署なのに、

みんなが自分の番になると私に頼んでくるから、結局交代の意味がない。

「あはは、もうマリちゃんの係にしちゃえばいいんじゃない?」

エリ先輩はいつも呑気なもんだ。

「じゃ、お先ね〜」

香水の甘い香りを振り撒いて、定時と同時にデートへと去っていく。

 

はぁ。

私は大きくひとつため息をついて、机に向かいノートを取り出した。

「えーと、課長はきっとこう言うでしょ、エリさんはこう言いそうだし、それから……

次の会議こそ、みんなをあっと驚かせるんだから。

私にもちゃんとできるところをアピールして、「万年進行役」を卒業して

あの新規事業のメンバーに加えてもらうんだ。

 

今回もまた進行役を頼まれることはわかっていた。

だから、今回は作戦を用意した。

きっと、数週間前の学びが、私を変えてくれるはずだ。

 

……知的基礎体力?」

ぼんやりとネットサーフィンをしていたところ、気になるワードが目に飛び込んできた。

……ディベートで、ビジネスの知的体力鍛えませんか? って、なにそれ???」

 

ディベートは中学の授業で経験がある。

すごく苦手だった。

ある議題について「肯定」か「否定」かと二つの立場に別れて議論をする。

大抵の生徒は、気の強い子が怖くて何も言い返せないから、勝負はグループ分けをした時点で決まっているようなものだった。

それに、ディベートのグループ分けは本人の意見とはまったく関係がない。

「絶対反対でしょ!」と思ったとしても、肯定側に入ることになれば、肯定の意見を述べなければいけない。考えたところで、本心では思っていないんだから、答えはそう浮かぶものじゃない。

——何を言ったらいいんだろう。

そんな風に悩んでいる内に、あっという間に持ち時間が過ぎてしまう。

議論をするどころか、自分の意見を持つことすら苦手な私は、中学でのディベートには苦い思い出しかなかった。

 

それなのになぜだろう。

久しぶりに見た「ディベート」の文字が、なんだか私を呼んでいるような気がしてならない。最近残業が続いたせいで疲れているのだろうか。

だけど、冷静になって考えてみても、やっぱり気になってしまう。

 

ディベートで「ビジネスの知的基礎体力」考える・話す・聴く力を育てよう!

ディベートで「論理的思考力」と「コミュニケーション力」を磨こう!

 

本当にそんなことができるのだろうか。

気持ちは半信半疑だった。

でも、どの力も今の私に足りていないことは明らかで、

身に付けることができれば、何かが変わるかもしれない、という予感がした。

 

「何事も挑戦! だよね……」

私は不安を抱えながらも、意を決して講座への申込手続きを済ませた。

 

 

「はい、こんにちは。お名前が置いてある席に座ってくださいね」

当日会場に入ると、落ち着いた雰囲気の男の先生が声をかけてくれた。

「あ、はい。ありがとうございます」

 

会場には、10名近い参加者が既に席に着いていた。

30代くらいや50代後半に見える女性。

60代くらいの男性もいる。

——結構いろんな人が来るんだな

そう思いながら歩いていくと、若い男性の隣の席に、私の名前の名札が置いていた。

 

「こんにちは、よろしくお願いします」

「あ、こ、こんにちは! よろしくお願いします!」

——新卒くらいかな。緊張している様子の彼と挨拶を交わし、席に着いた。

 

一体これから何が始まるんだろう。

テキストのページをチラッと開いてみる。

 

「素直に実践する人だけがスキルを獲得する」

 

なんだかドキッとして思わずページを閉じた瞬間、

「それでは時間になりましたので、始めたいと思います」と先生が口を開いた。

 

・ディベートとはなにか? 

・ディベートの方法

・準備の方法……

 

ディベートや議論の構造について、講座はテンポ良く進められていく。

先生の言葉は無駄がなく、スルスルと頭に入ってくる。

「では、次はこのテーマについて話したいと思います。最初にこのことについて、次にこのことについて、二つのことをお話しますね」

これから何が話されるかがわかると、こんなにも頭に入って来やすくなるのかと、正直驚いた。

「論理的思考とは」なんて一見難しそうな話でも、あ、ここがポイントだな、そろそろまとめだな、と想像がつくから理解もしやすい。

さらに、順に理解しながら聞いていると、わからないところがポンッと浮かび上がってくる。

「先生、これはどういう意味ですか?」

つい質問が口をついて出た時、自分でも正直驚いた。

いつもだったら講座や会議の場で「質問はありませんか?」と聞かれるのが苦手だった。

話についていくことに精一杯で、正直自分が何を理解できていないのかも、それ以上何を知りたいのかもわからなかった。

誰も手を上げない長い沈黙に妙な圧力を感じ、言葉は何一つ浮かんで来なくなる。

そんな時間が嫌で仕方がなかったのに、

今日は「ここをもうちょっと聞いてみたいな」「こういう場合はどうなるんだろう」と、

不明瞭な箇所が明確になり、興味もどんどん湧いてくる。

そんな風に積極的に参加している自分に、少し驚きながらもなんだか嬉しかった。

 

「では、これからディベートの準備に入ります。まずはグループを4つに分けて、その後に各自席を移動して、試合の準備をしてもらいます」

 

私は、隣の席の若い男性と、50代後半の穏やかな雰囲気の女性とチームになった。

 

「では、今日の議題は事前にお送りしていた通り、

『日本はサマータイム制を導入すべし』です。

こちらのチームは肯定、こちらのチームは否定で試合を行います」

 

——しまった。

と心の中で思った。自分とは違う意見の方に当ってしまったからだ。

そんな私の心を見透かしているかのように先生が話を続ける。

「それぞれ自分の意見とは違う場合もあると思いますが、試合は知的基礎体力を鍛えるトレーニングです。自分の意見と違うということは、多角的に物事を捉える練習になります。負荷をかけた方がしっかり鍛えることができますので、前向きに挑戦してみてくださいね」

 

おもわず隣の男性と目が合う。

きっと彼も同じことを思っていたのだろう。

そうだ。講座の時間は限られている。だったら、楽をするよりしっかり負荷をかけて鍛えられた方がお得じゃないか!

 

自らを奮い立たせ、「やりましょう!」とチームメイトの2人に笑顔で声をかけた。

 

 

「では残り3分です。みなさん、そろそろ準備はいいでしょうか」

 

試合の準備時間は想像以上に短かった。

資料は事前にもらっていたものの、どちら側の意見になるかで読み方は随分変わってくる。

まずいまずいまずいまずい。

焦れば焦るほど、どんどん時間がなくなっていく。

 

ピピピピ ピピピピ ピピピピ

タイマーのアラームが非情な合図を告げる。

 

私達3人は不安な視線をお互いに交わした。

「大丈夫ですよ、まずはやってみましょう」穏やかな女性が私達をなだめてくれた。

「そうですね、やれるだけやってみましょう」私も気丈な振りをした。

「は、はい。なんとか、なりますよ! ね……?」

一番若い彼が不安そうにこちらを向いたので、女性陣二人は笑顔で頷いた。

 

「では、試合を始めます。まずは肯定側の立論です。時間は2分です」

 

試合が始まるとあっという間だった。

制限時間内に自分達の意見を述べる。

すると相手側から質問が来る。

それに答えるとまた時間になり、相手側が意見を述べる。

聞きながら考えをまとめ、端的に質問をぶつける。

作戦時間はそれぞれ1分。

「えっとー」なんて言っているうちに終わってしまう。

 

ピピピピ ピピピピ ピピピピ

時間が来るたびにアラームが鳴り場面がどんどん展開されていく。

 

——あ、そう言えば……。

「試合中はメモを取ってください」と先生に言われたのに、

紙の上にはミミズが這ったような跡しか残っておらず、何も読めやしない。

 

ピピピピ ピピピピ ピピピピ

「では以上で試合終了です」

 

はぁああああ

先生の終了の合図と同時に、緊張感から解放され、安心と疲労がドッと押し寄せて来る。

 

「肯定側も否定側もお疲れ様でした。早速ふりかえりをしてみましょう」

そう言って先生はホワイトボードをクルッと回転させた。

 

——え、嘘でしょ?!

 

そこには、今の試合の流れの要所要所が書かれていた。

何を発言して、どんな質問が出て、どう答えたか。

それが一目瞭然だ。

私は思わず、先生のホワイトボードと自分のメモとを見比べる。

 

「どうですか、みなさん。メモはしっかり取れましたか? 話を聞いて、ポイントを書くことはできましたか?」

思わず下を向いて首を振る。

 

「きちんと聞いて理解して書くって難しいですよね。でも大丈夫ですよ。

30回も試合をやれば、これくらい書けるようになりますから! ハハハハ」

 

先生はそう言ってみんなを励ましながら、先ほどの試合を丁寧に振り返ってくれた。

 

「肯定側のこの発言に対して、否定側はこう質問しましたね?

でも、じつはこの主張、根拠が述べられていませんよね?」

「次は、否定側からはこんな意見が出ました。でも本当にそう言えますか? 十分な裏付けがありませんよね?」

 

ひとつずつ聞いていくうちに、

あぁ、そうだ、あぁ、そうだ、と思ってしまう。

 

「この質問はよかったですよ。相手の論点の穴を突いていた。

よくこの短い時間にしっかり聞いて考えましたね!」

 

おぉ、なるほど。そういう風に考えていけばいいのか。

今日講義で習ったことと、先ほどの試合の内容が段々と結びついていく。

 

「今日1日やってみていかがでしたか。

「伝える」ということ、「聞く」ということ「考える」ということ。

それがどういうものなのか、以前より理解は深まったでしょうか」

先生の問いかけに、私はうんうんと頷いた。

 

「これが身に付くかどうかは、みなさん次第です。どうかトレーニングを続けてみてくださいね」

 

——素直に実践する人だけがスキルを獲得する。

テキストの最初のページに書かれている言葉が今、改めて身に沁みてきた。

習うだけじゃなく、実践しなきゃダメなんだ。

 

その日から次の部内会議まで、私は一人復習を重ねた。

 

 

「では今日の会議を始めます」

全員が着席したところで声をかけた。

 

「今日の会議で話し合う内容は三点です。

一点目は各自の進捗報告、二点目は新規取引先への提案について、三点目は先月部長からお話のありました経費削減の取り組みについてです。

では、まず各自の進捗報告です。課長からお願いします」

 

数週間前の講座で習ったことで、会議に生かせそうなものは全部試してみた。

議論が行き詰まった時には、

「では、それを実施した場合のメリットとデメリットについて比較してみましょうか。

まずはどんなメリットがありますか」と話を振ってみた。

すると、普段は沈黙が続いたり脱線しがちな会議がスムーズに進んでいく。

 

秘密は、このノートだ。

ディベートの試合では、相手の意見を想定した準備ができなかった。

だから今回の会議では、予めそれぞれが言いそうなことを考えてメモしていた。

この二人の意見がぶつかったら、どう展開していこうか。

もし脱線した場合には、作戦を二つ用意しておこう。

もちろん予想通りにはいかないこともあるが、事前準備は想像以上に効いていた。

 

「次の会議は来月15日の午後2時です。では、今日の会議を終了します」

会議は予定時刻よりも早く終わった。

いつもなら30分以上は延長するのに……。

エリ先輩も長いつけまつげをパチパチとさせている。

 

「二宮、ちょっといいか」

みんなが退室した後に部長に声をかけられ、ドキッとした。

もしかして、新規事業のメンバーに? 

 

「お前さ、また会議の進行役やってくれない?」

「あ、は、はぁ」

 

とんだ勘違いだった。結局私はみんなが嫌がる「進行役」しかもらえないんだ。

ガッカリして肩を落とした。

 

「来週の火曜の15時な。新規事業の担当メンバーだけで会議をやるから。

詳細はまたメールで送る。会議の前にちょっとすり合わせをしておこう。

二宮もメンバーだからな。今日みたいに頼んだよ」

 

じゃあな、と行って去っていく部長の背中がなんだか滲んで見えた。

私は手にしていたノートを両腕の中にギュッと抱き締めた。

ノートの1ページ目には、あの言葉が大きく書かれている。

「素直に実践する人だけがスキルを獲得する」

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【東京】6月24日(土) ディベート・ベーシック講座

https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/014xt3ys2r8q.html

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